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相談事例Q&A

2 隣地・境界

相続により親の土地建物を取得しました。ところが、相続した建物が隣地にはみ出しています。越境している部分の土地を時効取得できるのでしょうか。

(1) 取得時効の要件を満たせば、越境している部分の土地を時効取得できます。

1 時効取得できるか。

本来、他人の土地の上に建物を建てることは、他人の土地に対する所有権の侵害となります。したがって、土地所有者である他人から建物の撤去を求められた場合には、撤去しなければなりません。
もっとも、民法上、一定の期間土地を占有した場合には、その土地の所有権を取得するという、取得時効の制度があります。
取得時効とは、
・20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
・10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
という制度です(民法第162条)。
なお、ここでいう善意・無過失とは、自分に所有権があるものと信じ、かつ、そのように信じることについて過失がないことをいいます(最高裁判所昭和43年12月24日判決)。

相談者の事例ですと、他人の土地の上に建物を建てた際、隣地にはみ出していることを知らず、知らないことに過失がなければ、10年間経過することによって、土地の一部を時効取得することができます。
また、他人の土地の上に建物を建てた際、隣地にはみ出していることを知っていた場合、知らないことに過失があった場合には、20年間経過することによって、土地の一部を時効取得することができます。

2 土地建物を相続したことによって結論が変わるか。

質問者は、親から土地建物を相続したばかりです。
この場合でも、質問者は、質問者自身の占有に、親の占有も合わせて主張することができます(民法第187条、最高裁判所昭和37年5月18日判決)。
したがって、質問者自身が1年も占有していなかったとしても、親が9年占有している場合には、合計して10年の時効取得を援用することができます。
もっとも、親の占有も合わせて主張する場合には、親の占有の瑕疵も承継します。
例えば、親が、建物を建てた際に隣地にはみ出していることを知っていた場合には、占有開始時に悪意であったことになります。
占有開始時に悪意であった場合には、20年間占有することが必要です。質問者の占有期間が1年間、親の占有期間が9年間の場合には、合計10年間しか占有していません。したがって、この場合には、悪意による占有が20年間継続していないため、質問者はまだ時効取得できないことになります。
以上




参考条文 

(所有権の取得時効)
民法第162条 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。


(占有の承継)
民法第187条 占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。
2 前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。


参考裁判例

最高裁判所昭和43年12月24日判決
民法一六二条二項にいう占有者の善意・無過失とは、自己に所有権があるものと信じ、かつ、そのように信じるにつき過失がないことをいい、占有の目的物件に対し抵当権が設定されていること、さらには、その設定登記も経由されていることを知り、または、不注意により知らなかつたような場合でも、ここにいう善意・無過失の占有というを妨げないものと解すべきである。


最高裁判所昭和37年5月18日判決
民法一八七条一項は「占有者ノ承継人ハ其選択ニ従ヒ自己ノ占有ノミヲ主張シ又ハ自己ノ占有ニ前主ノ占有ヲ併セテ之ヲ主張スルコトヲ得」と規定し、右は相続の如き包括承継の場合にも適用せられ、相続人は必ずしも被相続人の占有についての善意悪意の地位をそのまま承継するものではなく、その選択に従い自己の占有のみを主張し又は被相続人の占有に自己の占有を併せて主張することができるものと解するを相当とする。従つて上告人は先代Bの占有に自己の占有を併せてこれを主張することができるのであつて、若し上告人先代Bが家督相続により上告人先々代Aの本件土地に対する占有を承継した始めに善意、無過失であつたとすれば、同人らが平穏かつ公然に占有を継続したことは原判示により明らかであるから、一〇年の取得時効の完成により本件土地の所有権は上告人に帰属することになる。

  • 監修:善利法律事務所 善利 友一 弁護士